2014年11月07日

トヨタ86 を日常の足に!というのは何か違う

  ドライブにはとても良い季節の3連休でした。東京西部の幹線道路を走っていると、ルーフを開け放ったボクスターが隣り車線を気持ち良さそうに駆け抜けて行きます。ちょっと抽象的で恐縮ですが、「これこそがクルマの醍醐味なんだ!」と全身から嫌というほどに発信してくるのがポルシェですね。それにしてもとことん洗練されたデザインが眩しい限りです。そして理想の2シータースポーツカーとして全てが過不足ないサイズ感に収まっているのもとてもいいですね。スーパースポーツやマッスルカーのような周囲を威嚇するような、品のなさもないですし、フェアな視点で見てとても自然体に見えるポルシェの入門車ですし、このクルマを見る度に日本で異例のヒットを記録したのがよくわかります。

  ボクスターでもベースグレードで軽く700万円するので決して安くないですが、真剣に検討したときに3.5Lのクラウンアスリートと比較してみても、タイプこそ違いますが大きな遜色はないので、ポルシェにしてはかなりコスパがいいことが分ります。多少無理すれば買えてしまう辺りが悩ましいところで、せっかく買うならポルシェかな?と決断する人も少なくないと思います。そもそも3.5Lのクラウンマジェスタはそれほどお買い得というわけではないかもしれません。「居住性」のクラウンと「走りとデザイン」のボクスター・・・どちらも非常に高い水準にあることは間違いないです。

  ボクスターを買う人の背中を力強く推すのは、やはり非日常の領域を十分に実現しているエンジンと走りだと思います。スポーツカーが醸し出すシンプルなファン・トゥ・ドライブということならトヨタにも86があります。このクルマの最大の魅力を一言でいうならば、従来のトヨタ車に対する「アンチテーゼ」です。スカイライン、WRX-S4、ゴルフGTIといった最新のマルチ性能を備えた各メーカー渾身の自信作は、どれも素晴らしい出来映えで創造性すら感じるわけですが、やはりボクスターや86のような専用設計スポーツカーはそれらの万能車をまるで嘲笑うかのように、構造の「シンプルさ」だけで、走る喜びを見事に演出してしまいます。そういえば昔のクルマってこんな乗り味だったような・・・なんて忘れかかっていた感動を見事に呼び起こしてくれます。

  アクセル踏んだら動き出して、ブレーキ踏んだら止まる。そんな自動車運転の大前提も追従クルーズコントロールの普及で変わってきています。追従クルコン以外でも最近のクルマはアクセルオンにしてから動きだすまで、しばらく間があったりします。どれくらい燃料出して、どれくらいエンジンまわして、どれくらいトラクションを配分して・・・クルマのコンピューターがあれこれ考えてから動き出している過程はしばしば「ダルい」と感じてしまいます。高級車になればなるほどに仰々しいほどの”シンキングタイム”が設けられ、ダウンサイジング&車重増加の傾向から、昔のクルマにあった動きだしのキビキビ感はかなりスポイルされています。メルセデス・VW・トヨタ・日産・スバル・マツダといった好業績へと推移しているメーカーの最新モデルほどこの傾向は露骨に感じられます。

  キビキビ走りたかったらスポーツカーに乗りなさい!まあ正論ですね。それでもトヨタ86だからってキビキビ感があるか?というと、意外にそうでもなかったりします。待たされてもイライラしますけど、過敏すぎてもヒヤヒヤで落ち着かないというのもよく分りますが、86のアクセルフィールはトヨタによって「計算」されていて、そのユーザーの主体となる年齢層をも考慮して、中間の絶妙なところを狙っています。スポーツカーとしてアクセルワークにじりじりと神経を使うようなセッティングではなく、あくまでニュートラルなフィーリングを目指して開発されているのだと思います。だからといって単純に高齢者向けの緩いスポーツカーと批判するつもりもありませんし、私のようなマツダ車のアクセルやハンドリングのフィールを好むユーザーにとっては、むしろとても魅力的なクルマです。

  さきほど「アンチテーゼ」と書きましたが、トヨタの考えとしては「ハイブリッドとの対比」あるいは「プリウスの懺悔」という意味で、ブランドにとってとても存在価値のあるクルマだと思います。日本の自動車の基本設計のあり方を「ハイブリッド」へと変えたのは、実際のところトヨタ1社の全力投球によるところが大きいです。市場で流通するクルマのアクセルフィールはHVの販売比率が高まるにつれ、良く言えば穏やかで安全なものになり、悪く言えば鈍くてつまらないものになっているような気がします。86のアクセルフィールも「スポーツカーはやっぱり凄い!」という感動ではなく、「10年くらい前に乗ってたクルマはこんな感じだったな・・・」というノスタルジーに近いです。

  10年前のクルマと同じフィールを再現しただけなのに、支払い総額で300万円を軽く超えてくるという価格設定にはいろいろな意見があるかとは思います。あまり言われることは少ないですが、車体剛性の高さを意外にも強く感じられるのがこの86です。その点を評価するならば価格設定は納得できるのですが、逆にもっと上屋部分はもっとしなやかで、シャシー剛性を特に重視する設計が、かつての日本の高性能車に共通する美点だったことを考えると、なんとも言えない重苦しさを感じます。86が瞬く間に海外でも高い評価を受けるようになったのは、このドイツ車的というか先代ゴルフを思い出させる車体の剛性感と、日本車的なライトウエイトスポーツが不思議な調和をしたような質感が新鮮に感じられた結果が良い方向に出たと思います。

  86の乗り味は、最終型セリカ、MR-S、マツダロードスターといった日本のお家芸ともいえるライトウエイトスポーツの伝統とは、大きく違うところにあって、発売当初からターボを積んでほしいという声も相当にあったようです。トヨタは安易なターボ化には難色を示しているという噂ですが、車体にあったパッケージを模索すると、300ps以上の出力というのも日本人が大好きなBMWを彷彿とさせる感じで、なかなか説得力のある結論じゃないでしょうか。

  この86を日常の足として、ハッチバックのファミリーカー的な使い方をする人も多いようです。トヨタはその需要を見越して2+2シーターとして開発するなど完全に色気を見せているわけですが、やはり乗ってみると趣味性の強いセカンドカー的な設計に「圧倒」され「圧迫」されるので、日常の使用でこれはさすがに苦しいのではないかという気がします。トヨタの鋭い狙い(ミーハー?)とは、微妙にズレていてスバルの堅物っぷりがクルマの雰囲気を独特のものにしています。日常のクルマというとVWゴルフのような無機質なデザインをイメージするかもしれませんが、むしろ日常のクルマこそ色気がほしい気がします。普段はマツダ・アテンザのようなクルマに乗って、たまの休みにはマツダ・ロードスターのようなストイックなスポーツカー・・・なんて選択が正しい気がします。

  トヨタ86はそういう意味でも日常のクルマにはどうも相応しくないです。かといってスポーツカーとしてのピュア度にもやや疑問があります。確かにドライブフィールは一般的なクルマよりも良好で、アクセルレスポンスもハンドリングも申し分ない水準に達しています。さらにブレーキのフィールをポルシェくらいにガツンと効くものにすれば、さらに良いクルマになりそうな予感はあります。ただしその過程はトヨタが狙う「マルチタスク」なスポーツカーとは逆の方向への進化になります。トヨタはここから先の打開策としてG’sなどのさらに濃いスポーツ性を有するコンプリートモデルを予定しているようです。

  デビュー当時のコンセプトのまろやかさで、ある程度のユーザーをスポーツカーへと引き摺りことに成功した86は素晴らしい戦略が光るプロジェクトでしたし、大成功だったと思います。しかし西川淳さんが今月のニューモデルマガジンXで「86は魔性ではない!」という慧眼を披露されてらっしゃいますが、やはり日常でも非日常でもなかなかハマらない収まりの悪さはあります。共同開発しているスバルはこの手の演出があまり上手くないので、トヨタはもっとリーダーシップを取って大胆にクルマを改良していく必要があるのかなと思います。ぜひ今後に期待したいモデルです。

  
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posted by のっち at 01:15| Comment(0) | トヨタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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